リプレースメントセラピー

方法 着眼点 研究者 年代     花田先生のコメント
      1978      
LDH欠損変異株の作成 糖代謝の最終産物である乳酸を作るための酵素(LDH)を不活性化させることにより酸産生を抑制すること。 Hillmanら(フロリダ大学) 薬品処理によりLDH活性が著しく低下したS.rattus BHT-2の変異株を作成。リプレースメント・セラピーの可能性を示唆。     薬品による細菌変異株は、遺伝子レベルの変化が少なく再び親株に戻る可能性が大である。したがって実用に供するには、病原性遺伝子を染色体上から大きく削除することが求められる。
      1985 1989    
    Salemら(トロント大学) 薬品処理によりS.sobrinusのLDH欠損変異株の作成に成功 バクテリオシン産生LDH欠損変異株S.mutans 044株のラットの実験。この株を有望と考えた。    
      1987 1990 1994  
バクテリオシン過剰産生株の作成 バクテリオシンとは、細菌が産生するタンパク質性抗菌物質の総称。他の菌株の発育を阻止し、自己の定着に有利に働く。この特徴をリプレースメント・セラピーに応用する。 Hillmanら(フロリダ大学) バクテリオシン過剰産生株JH1005を用いてヒト固有のMS菌の排除効果を3人のボランティアを使い検討した。 SMutans JH1000からLDH遺伝子のクローニングに成功 LDH遺伝子の挿入不活性化により変異株は増殖を停止し結局は失敗に終わる。  
      1989      
アルギニンディミナーゼ・システムの導入 齲蝕発症の直接の原因につながるS.mutans周囲環境のpHの低下をアンモニア産生遺伝子の導入で防ぐ。 Burneら(ロンチェスター大学) S.mutansに、同システムの遺伝子を組み込む。 'S.sanguisは、アルギニンディミナーゼ・システムによりアルギニンからアンモニアを産生し周囲環境のpHを上昇させることにより致死的な酸性環境から逃れている。 S.mutansは、ATPアーゼによりH+を菌体外に排出することで酸性環境から菌体を守りつつ、持続的に乳酸を作り続けるシステムを持っている。 アンモニア産生は、歯石沈着をはじめとするさまざまな問題で身体に対する悪影響も考えられるので、実用化にあたっては慎重に対処する必要がある。
      1985      
S.salivarius TOVE-R デンマーク女性TOVEさんの口腔内から分離したS.salivarius菌を使う。MSと同等の歯面付着能力がある菌で、MSより耐酸性や酸産生能が低いため齲蝕を減少させる。 Tanzerら(コネチカットヘルスセンター大学) TOVE-R株を単独または、S.mutansやS.sobrinusと競合させてSPFラットに感染させる実験を行った。 SPFラットやTOVE-R株だけを感染させたラットでも裂溝齲蝕が発生しているので無制限な砂糖摂取を行うと口腔常在菌叢でも齲蝕を発生させる。これは典型的な内因性の感染症である。   S.mutansやS.sobrinusの大規模な遺伝子組み替えによる変異体よりも自然に近いTOVE-R株は、実用化にあたって社会的同意を得やすいであろう。

虫歯菌を『歯に無害な菌』に置き換えることによって虫歯を予防しようとする方法。 『う蝕細菌の分子生物学』第3部第6章「リプレースメントセラピー」(花田信弘)より



ページの作成者: 斎藤 健志 日付: 1998年11月5日.