斎藤家の食卓  EBMerの狂牛病 との闘い   by Takeshi Saito 11/01/01

千葉で狂牛病が発生して以来、地元、斎藤家の食卓から牛肉消えて1ヵ月・・・

夫:「なんで牛肉食べちゃだめの!?」

妻:「普段から、根拠、根拠って偉そうにいってるけど、
   安全だって証拠あんの?」

夫:「骨格筋からは、プリオンは検出されない。感染性もない。
   だから狂牛病の牛の肉でも安全」

妻:「脊髄が危なくて、解体のときに血が飛び散るから肉も
   アブナイの!理屈じゃなくて現場を考えなさいよ。」

夫:「・・・そ、そうだけ、それじゃね、根本的なこと聞くけど、
   狂牛病って本当に人間に感染するの?」

妻:「わからないから恐いんじゃない。私に聞くより、
   EBMってやつで調べなさいよ。

妻:「で、わかったら答えだけ教えて。理屈はいいから、
   牛肉食べていいのか?悪いのか? それだけ」

夫:「情報を知っても吟味しないと判断できないだろう。」

妻:「私は、あんたみたいに暇じゃないの。ともかく結論だけ
   教えて下さい。では、もう寝ます。」

夫:「・・・・(俺も決して暇じゃなんだけど)、しょうがない検索するかぁ・・・」

消えた牛肉を復活させるべく、EBMerは、狂牛病との戦いを始めた。

<実践>

山内先生、池田先生のHPの日本語での情報で基礎知識をつけ、公衆衛生のMLでの激しい議論に聞き耳を立てつつ、PubMedのClinical Queriesを使いvCJDのetiologyを検索(63 Hit)する。ともかく、英語力が無いと論文読むのに膨大な時間がかかり、休日と睡眠時間がつぶれ、肝心の日常の診療が体力的に着つくなる・・・

<結論>

牛肉食うなら、やっぱり和牛が1番でしょう! (^_^)

<お薦めHP>

人獣共通感染症(山内一也


詳細な解説

狂牛病に関して現在までの知識を整理しました。
以下の文章には誤りが含まれている可能性と今後の情報次第では否定される部分があることを充分にご承知下さい。

<結論>

PrPsc(BSE)がvCJDの原因だとする直接的な証拠はない。
しかし、疑うに値する充分な間接証拠があり、感染性に関しては
基礎研究により科学的な根拠をもって「ほぼ」裏づけられている。
現時点で牛肉にゼロリスク(絶対に安全)を求めるの無理。

しかし、日本でvCJDを発症するリスクは限りなくゼロに近い。

<略号>

PrP:プリオン PrPsc:異常プリオン
BSE:狂牛病 vCJD:特異型クロイツフェルト・ヤコブ病
Tg-PrP(vCJD) mouse ヒトプリオン遺伝子をもつマウス
Tg-PrP(BSE) mouse BSEプリオン遺伝子をもつマウス
BMJ:英国医師会雑誌(インターネット上で無料公開している)

<解説>

1。PrPsc(BSE)が、vCJDの原因となるのは、「ほぼ」確定。

なぜ、「ほぼ」かというとTg-PrP(vCJD) mouseに対するPrPsc(BSE)の感染実験は接種600日めで発症している( Colling J. )がいまだ論文化されていないためにVenters( BMJ, 2001 )に反論されている。

したがって、この研究の最終的な論文が掲載された時点で、Ventersの異議申し立ての1つの柱は崩れる。また、サルでの感染実験は成功している。( Lasmezas, PNAS, 2001 ) ただし、脳内接種および静脈注射あり経口感染は立証していない。経口感染の研究と発症最低感染量の研究が速急に望まれる。

しかし、経口感染の実験は、潜伏期間が長いため結果がでるまで何百日(数年)かかるので、緊急を要する今回の問題には向かない。したがって、外堀を固めてから数年後に論文がでるでしょう。

<確かな事実があります。>

1。肉骨粉の使用禁止後、英国でのBSEの発症は激減している。
2。BSE発症国でしか、vCJDは発症していません。

 CJDのように人口比に応じて突然発症(100万人に1人)する 疾患なら 人口2億人であれだけ牛肉を消費しているアメリカでBSEおよびvCJDが1例も発症していない理由が説明できません。

<安い肉製品は危険>

1。英国では1989年以前は、脳を「ビーフ」として表記することを認めていた。したがって、100%ビーフ・ハンバーガーに「脳」が混入していた。もちろん現在は、脳の食用使用は法律で禁止されている。

2。ドイツで、市販のHigh-qualityでないレバーソーセージ126点を検査したところ、4%(5点)のソーセージから脳・脊髄神経組織が検出された。( Lucker, Br J Nutr, 2001 )

*違法行為による危険性は現在も残っており、食品管理体制が必要

3。vCJD患者は、ほとんどが若い年齢(10〜20才代)で発症している。

   以上の点が、ハンバーガー&ミートパイが危険だという根拠。

 英国では1997年5月以降、英国小児科監視ユニットにより16才以下のPIND(進行性知的障害と精神薄弱)をもつ小児を3年間監視つづけている。その結果、855人のPIND患者が報告され、vCJD確定2症例、疑い1症例。( Verity, Lancet, 2000 )

<Dose-Response>

発症に必要な最小限度量は、まったくもって不明であり、検出限界以下の量でも蓄積されればどうなるか現時点ではだれもわからない。

Venterの論文を読んだブタ農夫(49才)からのBMJへの投稿、
「俺は肉骨粉を食べていたし、仲間も食べてたよ。でも元気だけど?」

これに対するDr.Joelのコメント、

「ブタの餌になる肉骨粉羊からのもの。だから感染しなかったんだろう。 プリオンがヒトに感染性を示すためには牛を経由する必要があった。」

<血液感染の危険性>

vCJDは、血液感染しないと考えられていたが、扁桃( Wadsworh, Lancet, 2001 )、虫垂より検出されたことにより、血液感染の危険性が指摘された。そこで、理論的危険性より、PrPsc(BSE)の血液感染を恐れ、厚生労働省は、1980〜1996年までに英国に通算6ヶ月以上滞在した邦人からの献血を禁止している。この対策は、2001年3月に指定地域が拡大され、フランス、ドイツ、アイルランド、スイス、ポルトガル、スペインにまで広げられた。

<なぜ30ヶ月以上を検査するのか?>

研究により3才以下の牛では、PrP(BSE)は検出されない。そこで、3才以下は安全(実際には検出限界以下)とされる。牛は、2才半(30ヶ月)で歯並びが変わる(永久歯への交換)ため、判定しやすい30ヶ月以上の牛を検査することになった。

<検査の精度は?>

欧州協議会(EC)の報告書によれば、発症した牛の組織をゴールドスタンダードにしたブラインドテストによりウエスタン・ブロッド法(プリオニクス社、スイス)→日本で採用、ELISA法(エファー社、アイルランド)→日本で採用ともに感度、特異度ともに100%であった。しかし、BSE検査キットの市場は、将来莫大な利益を上げることが予測されるためECの公式コメントではないと強調している。

<歯科は無縁か?>

英国歯科医師会雑誌に注意勧告(Proter, Br Dent J. 2000 Apr 432-6)
「現時点で入手可能な証拠からは患者との接触で感染のリスクがあるとは考えられない。
しかし、PrPscは従来の化学薬品、照射、熱滅菌方法に抵抗性があるので院内感染に対する注意と具体的な対策が必要である。」

<PrPsc(BSE)不活性化条件>

1。EUにおける異常プリオン不活性化条件の目安

  「133℃×20分 3気圧以上」

  BSE-SSC(Scientific Steering Committee)EUにおけるBSEに関する科学諮問機関が
  公表したプリオン不活性化条件の目安値

2。OIE(国際獣疫事務局)が示している「異常プリオン不活性化基準」に「3気圧、130℃20分」という基準があります。

3。WHOには
  「水酸化ナトリウム処理として1既定で20℃、1時間」
  と言う処理条件があります。                              

問い合わせに対して各食品加工メーカーは、
* 弊社使用の肉エキスは上記目安以上の条件を満たしております。
のようにコメントしており、「一応安全」なようです。

なお厚生労働省の自主点検の結果:牛骨エキスがあります。

ところで、歯科で、「具体的な院内感染防止対策は?」 と聞かれると
少なくとも当院の現在の滅菌レベルでは対応しきれないことがわかりました。

英国ではvCJD患者の歯科処置はどうしているでしょうか?
異常プリオン対策は、やっかいですよ。